痛みについて 6
痛みの警告信号としての働き
痛みという感覚、痛みという体験は我々にとって避けられない体験であり、また体験せずに済むものだったら絶対に体験したくない嫌な感覚であることは誰しもが認めるところでしょう。
そのために薬を飲んだり注射をしたり、鍼治療を受けたりリハビリをしたりと様々な手段を講じてその痛みから逃れようと努力をしています。 しかし、その嫌な痛み感覚ですが、体の中ではとても大事な仕事をしています。 それは体内の様々な異常を知らせてくれる警告信号としての働きです。
体の一部をどこかにぶつけたり、非常に熱いものに触った時の鋭い痛みは、思わず体を避けさせて大きな怪我や火傷にならないように回避動作を起こさせる信号として働きます。 お腹の中から発する鈍い痛みはその付近に何か異常があるのでは?という予感を本人に起こさせて、安静にするかもっとひどければ病院に行って診てもらう・・ということで病気の早期発見に貢献するでしょう。
痛みは「痛い!」という感覚を起こすことで我々に異常事態の存在を知らせてくれているのです。
最後に
誰しもが嫌だ!と思う痛みですが、その嫌な痛みが起こらないととても困った事態に陥ることがあります。例えばがんがその代表格でしょう。がんは発生してからしばらくは殆ど痛みなど起こりません。
そのため本人が違和感を感じて病院で検査を受けなければと思った頃には相当進行していて、不幸にも手遅れであった・・等ということが少なからずあることは殆んどの方がご存知のことだと思います。
がんが発生した直後から痛みなどのはっきりした警告信号があれば、もっと早く病院を受診することになるでしょうし、その結果たくさんの人が助かったに違いありません。
また、こんな例もあります。私がまだ整形外科に勤務していた時の経験です。
ある時、中年の職人をしている男性が仕事中に足首の捻挫を起こして来院されたのですが、レントゲン検査でも骨折が否定できたためテーピング固定と鎮痛剤の投与を受けて帰られました。
その2日後、その患者様は患側の足を象の足のように腫れさせて来院したのです。事情を聴いたところ病院から帰った後、「先生からは安静にするように言われたが、仕事が立て込んでいたことと、薬が良く効いた様でほとんど痛くなかったので、すぐにまた仕事に戻ってしまった」というのです。
そして翌日は痛くならないように・・と鎮痛剤を多めに飲んで1日中仕事をしていたそうですが、さすがに夕方には痛みが出てきて我慢が出来なくなったため早めに帰宅したが、翌朝(当日)起きてみたところ患部が腫れ上がっていた・・・ということでした。
結局この患者様は、捻挫を起こした直後であるにもかかわらず患部を酷使してしまったため、痛みが治まらず1か月以上にわたって治療を余儀なくされてしまったのです。 この例も痛みを感じて安静にしていればこんな事態になることはなかったであろう事例です。
痛みがなぜ必要なのか? 痛みが担っている役割等は前に書いた通りです。痛みが起こることで我々は危険を回避し、障害の程度を軽くでき、あるいは病気の重篤化を防ぐことが出来ています。
しかしその一方、警告信号であるはずの痛みが長引いてくると「警告信号だから・・・」等とは言っていられない事態も生じてくることがあります。 慢性疼痛と云われる痛みがそれで、 治ると思われる期間を超えて痛みが継続している状態を云いますが、それは慢性的に痛みがあると痛みを感知、伝達、認知・・する疼痛システムそのものが敏感になり常に稼働している状態になってしまったり、伝達システムが痛み刺激や神経損傷のために変化してしまうのが原因だと言われています。 その代表格と言われているが帯状疱疹後神経痛で、皮膚にできた疱疹が良くなってしまってからも何年にもわたって痛みが残り、患者様を苦しめる病気です。
その結果うつ状態になったり、それが原因で社会活動に影響が出たり、離職を余儀なくされるような事態にまで追い込まれることすらあります。